ドル円160円台に逆戻り、15兆円の介入は1カ月しかもたなかった【2026年】
ドル円が8月28日、約1カ月ぶりに一時160円台へ戻りました。31日も160円台前半で推移しています。
この1カ月、円は静かに強くなっていました。7月末に163円台をつけたあと、8月半ばには157円台まで下げています。ところが、その流れがたった1日でひっくり返りました。
そして戻される前に何があったかというと、15兆円を超える為替介入です。
15兆円の介入は、1カ月しかもたなかった
まず、この1カ月の流れを整理します。
| 時点 | ドル円 | できごと |
|---|---|---|
| 7月29日 | 163.86円 | 年初来の円安ピーク |
| 7月31日 | — | 日米協調介入 |
| 8月中旬 | 157円台 | 今年8月の円高ピーク |
| 8月28日 | 一時160円台 | 約1カ月ぶりに回復 |
財務省の発表によれば、7月30日から8月26日までの介入額は15兆3,993億円。しかも今回は日本の単独介入ではなく、米財務省のベッセント長官も円買い・ユーロ売りで協力した日米協調介入でした。
これは相当に重い一手です。それでも、円高方向に押し戻せた期間は1カ月足らずでした。

引き金はウォーシュ議長の「利上げ」示唆
流れを変えたのは、8月28日のジャクソンホール会議でのFRBウォーシュ議長の講演でした。
議長はこう述べています。「基調インフレ率が目標に向かって明確かつ十分な速度で進んでいると確信できなければならない。そうでなければ、我々にはやるべきことがある」。
遠回しですが、インフレが収まらなければ利上げもありうるという意味に受け取られました。市場の反応は速く、9月のFOMCで利上げがあるという見方は講演前の35%前後から57~60%へ跳ね上がっています。米10年債利回りも4.7%台に乗せました。
米国の金利が上がるなら、ドルを持っているほうが有利になります。だからドルが買われ、円が売られました。
正直に書いておくと、これは事前に書いた記事での見立てと違いました。ウォーシュ議長は先行きの方針を示すことに消極的とされていたので、方向をはっきり示唆する可能性は高くないと書いていました。実際には、かなり踏み込んだ発言になりました。
介入は方向を変えられない、時間を買うだけ
今回の一連の流れは、為替について大事なことを教えてくれます。
15兆円という規模は、日本の防衛費に匹敵する金額です。それを一気に投じ、しかも米国まで巻き込んで、それでも1カ月しかもちませんでした。
理由ははっきりしています。為替の方向を決めているのは金利差だからです。米国の政策金利は3.75%、日本は1.00%。この差が縮まないかぎり、ドルで持つほうが有利という構図は変わりません。介入はその構図を変えるものではなく、動くスピードを一時的に緩めるだけです。
「介入があったから円高に戻る」と考えて持ち方を変えるのは、あまり報われない賭けだということになります。
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円安は日本のETF投資家にとって追い風、ただし
円安が進むと、為替ヘッジなしで米国株ETFを持っている人は有利になります。ドル建て資産の円換算額が増えるからです。
実際、同じS&P500に連動していても、ヘッジの有無でリターンは大きく変わります。ヘッジなしの1655とヘッジありの2563は、中身が同じでも直近1年で10ポイント以上の差がついています。この5年は、円安がヘッジなしに味方し続けてきました。
ただし、ここで注意したいことが2つあります。
①160円は当局が警戒している水準です。今回の介入が7月31日に入ったことを考えると、この付近では再び介入が入る可能性があります。介入が入れば数円単位で急に動くので、短期で為替に賭けるのは危険です。
②円安の追い風はいつか止まります。いま有利に見えるのは、これまで円安が進んできた結果です。将来も同じ方向に進む保証はどこにもありません。ヘッジあり・なしをどう考えるかは為替ヘッジあり・なしの比較で整理しています。
9月に控える2つのイベント
G20財務相・中央銀行総裁会議(8月31日~9月1日)
米国で開かれます。片山財務相とベッセント長官、植田日銀総裁の会談が注目されています。協調介入を実施した直後の会合なので、為替について何が語られるかは相場に影響しうる材料です。
日銀金融政策決定会合(9月17~18日)
市場では追加利上げへの見方が強まっています。日本の金利が上がれば金利差は縮むので、理屈のうえでは円高要因です。
ただし今回の局面が示したのは、日本側だけが動いても足りないということでもあります。米国が利上げに傾くなら、日本が0.25%上げても差は開いたままです。為替の行方は、日銀とFRBの両方を見ないと読めません。
結論:為替を当てにいかない持ち方
この1カ月で分かったことを整理すると、次の3つになります。
①プロでも当たらない。15兆円を投じた当局でさえ、1カ月しか流れを変えられませんでした。個人が方向を当てて売買するのは、分の悪い勝負です。
②イベントの前後は動きが荒くなる。G20と日銀会合が9月に控えています。この時期にまとまった金額を一度に動かすのは、避けたほうが無難です。
③だから時間で分けるのがいちばん現実的。毎月一定額を積み立てていれば、160円で買う月もあれば150円台で買う月もあります。平均されるので、どの月が高かったかを当てる必要がなくなります。
為替が気になるのは自然なことですが、VOOのような指数連動ETFを10年20年で持つつもりなら、160円か157円かは長い目で見れば通過点にすぎません。
よくある質問
Q. いま円安なので、米国ETFを買うのは待つべきですか?
待つ判断は「これから円高になる」と当てにいく行為です。今回のように当局の介入すら1カ月しか効かない世界で、その予想を当て続けるのは簡単ではありません。待つあいだに株価が上がってしまう可能性もあります。金額を分けて時期をずらすほうが、判断の失敗が小さくなります。
Q. また介入がありそうなら、そのタイミングで買えばいいのでは?
介入は事前に予告されません。実施されても数円動いたあとすぐ戻ることもあり、狙って買うのは困難です。今回も介入で6円ほど円高に振れましたが、1カ月で元に戻っています。
Q. 日銀が9月に利上げすれば、円高になりますか?
理屈のうえでは円高要因です。ただし市場はすでにある程度織り込んでいるため、実際に利上げされても大きく動かない可能性があります。むしろ「利上げしたのに円安が止まらない」という展開も起こりえます。米国側の金利見通しと合わせて見る必要があります。
Q. 為替ヘッジありに切り替えたほうがいいですか?
ヘッジには日米の金利差ぶんのコスト(年3%前後)がかかります。相場を読んで切り替えるのではなく、「使う時期が決まっているお金かどうか」で判断するほうが再現性があります。10年以上持つならヘッジなし、3年以内に使うならヘッジあり、という線引きが基本です。
介入という最大級の手段でも、流れを変えるのは1カ月でした。為替は当てにいくものではなく、当たらない前提で持ち方を決めるもの。今回の1カ月は、それをはっきり示してくれたと思います。
※ 本記事は2026年8月時点の一般的な情報です。利回りや値動きは市場環境で変わります。投資判断はご自身の責任でお願いします。
