為替ヘッジあり・なしどっち?S&P500 ETF 8本を実データ比較【2026年】
ドル円は2026年8月20日時点で158円台。7月末には163円台をつけた一方、日銀が9月17~18日の会合で追加利上げに踏み切るという観測が出て、じわりと円高方向に振れています。
こうなると必ず出てくるのが「米国株ETF、為替ヘッジありに乗り換えたほうがいいのでは?」という悩みです。答えを先に言うと、過去5年で見ればヘッジなしの圧勝、直近1カ月だけ見ればヘッジありの逆転。この二つが同時に事実なので、話がややこしくなります。
この記事では、東証に上場しているS&P500 ETF 8本の実データを使って、ヘッジあり・なしで何がどれだけ変わるのかを数字で並べます。そのうえで、どちらを選ぶかを決めるための3つの質問を用意しました。
為替ヘッジとは?「円高でも減らない」代わりに払うもの
米国株ETFを円で買うと、リターンは二つの部分でできています。株価そのものの動きと、ドル円の動きです。
たとえばS&P500がドルベースで10%上がっても、その間に円高が10%進めば、円で見た損益はほぼゼロになります。逆に株価が横ばいでも円安が進めば、円で見ると増えています。この為替の振れを打ち消す仕組みが為替ヘッジです。
やっていることは単純で、将来のある時点でドルを決まったレートで円に戻す予約(為替先物予約)を、1~3カ月ごとに更新し続けます。これで円高が来ても目減りしません。ただしその予約はタダではありません。
ヘッジコストは「日米の金利差」で決まる
予約レートは、二国の短期金利の差で決まります。金利の高い通貨(ドル)を売って金利の低い通貨(円)を買う予約なので、その金利差分を毎回払うことになります。これがヘッジコストです。
2026年8月時点の政策金利は、米国が3.75%、日本が1.00%。差は約2.75%です。実際のヘッジコストはこれに上乗せ分が加わるため、年3%前後を毎年払い続けているイメージになります。
つまり為替ヘッジは「保険」です。円高という事故から守ってくれる代わりに、事故が起きなくても保険料は毎年引かれます。
5年リターンは167%と52%、3倍以上の差がついた
では、その保険料は実際にどれくらい効いたのか。同じ運用会社が出している、中身が同じでヘッジの有無だけが違うペアで比べます(2026年8月19日時点、当社集計)。
| ペア(運用会社) | 1年 | 3年 | 5年 |
|---|---|---|---|
| 2633 ヘッジなし(野村) | +29.75% | +98.26% | +167.73% |
| 2634 ヘッジあり(野村) | +17.01% | +59.33% | +51.93% |
| 1655 ヘッジなし(ブラックロック) | +29.27% | +98.07% | +177.31% |
| 2563 ヘッジあり(ブラックロック) | +15.78% | +57.55% | +56.84% |
| 2558 ヘッジなし(三菱UFJ) | +29.85% | +98.32% | +167.92% |
| 2630 ヘッジあり(三菱UFJ) | +16.37% | +57.88% | +49.79% |
5年で167%と52%。100万円が267万円になったか152万円になったかの差で、これは誤差ではありません。
差の中身を分解すると
ドル円は5年前の2021年8月が約110円、いまが約159円。円は45%安くなりました。ヘッジなしはこの45%をまるごと受け取ったことになります。
ざっくり試算すると、2633の+167.73%から為替の45%分を除くと、ドルベースのS&P500は5年で約84%。一方ヘッジありの2634は+51.93%ですから、その差の約21%が5年間に積み上がったヘッジコストにあたります。年に直すと約3.9%。冒頭の「年3%前後」とおおむね一致します。
保険料としてはかなり高い、というのが正直なところです。しかもこの5年は円安が続いたので、保険は一度も役に立ちませんでした。

ところが直近1カ月は「ヘッジあり」が逆転している
ここまで読むと「ヘッジなし一択では」と思えます。しかし直近1カ月を切り出すと、絵がひっくり返ります。
| ペア | 直近1カ月 | 直近6カ月 |
|---|---|---|
| 2633 ヘッジなし | +0.80% | +14.99% |
| 2634 ヘッジあり | +3.07% | +10.71% |
| 1655 ヘッジなし | +0.35% | +14.54% |
| 2563 ヘッジあり | +2.19% | +9.82% |
| 2558 ヘッジなし | +0.72% | +14.94% |
| 2630 ヘッジあり | +0.81% | +10.21% |
| 1547 ヘッジなし | +0.80% | +14.96% |
| 2521 ヘッジあり | +2.55% | +10.10% |
6カ月ではまだヘッジなしが4~5ポイント勝っているのに、1カ月では順位が入れ替わっています。理由ははっきりしていて、この1カ月でドル円が163円台から158円台まで下げたからです。円高が進んだ分だけ、ヘッジなしは為替で削られました。
日銀は6月に政策金利を1.0%へ引き上げ、7月末の会合では見送り。市場は9月17~18日の会合での追加利上げを織り込みにいっています。利上げが実際に来れば日米の金利差はさらに縮み、円高圧力とヘッジコスト低下が同時に進むことになります。ヘッジありにとっては追い風が二重に吹く形です。
とはいえ、1カ月の順位で長期の持ち方を決めるのは危険です。この表が示しているのは「ヘッジありが正しい」ではなく、局面によって勝つ側が入れ替わるという事実のほうです。
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ヘッジコストは信託報酬に含まれない、という落とし穴
ここが一番見落とされる点です。目論見書や証券会社の画面に出ている信託報酬を見ると、ヘッジありは0.077%、ヘッジなしは0.066%。差はたった0.011%です。
「ほとんど同じじゃないか」と思ってしまいますが、違います。年3%前後のヘッジコストは、この信託報酬にはまったく含まれていません。
ヘッジコストは手数料として請求されるのではなく、為替予約を更新するたびに基準価額そのものに静かに反映されていきます。明細のどこにも「ヘッジコスト」という行は出てきません。だから安いと勘違いしたまま持ち続けてしまう人が多いのです。
実質的な負担は、信託報酬0.077%+ヘッジコスト約3%=年3%強と考えるのが正しい見方です。これは高配当ETFの分配金利回りをまるごと打ち消すくらいの水準です。
東証で買えるS&P500 ETF 8本、ヘッジあり・なし早見表
円のまま、日本の株と同じ感覚で売買できるS&P500 ETFは8本あります。4組のペアになっていて、同じ運用会社で中身は同じ、ヘッジの有無だけが違います。
| 運用会社 | ヘッジなし | ヘッジあり | 信託報酬(なし/あり) |
|---|---|---|---|
| ブラックロック | 1655 | 2563 | 0.066% / 0.077% |
| 三菱UFJ | 2558 | 2630 | 0.066% / 0.077% |
| 野村 | 2633 | 2634 | 0.066% / 0.077% |
| アモーヴァ | 1547 | 2521 | 0.165% / 0.165% |
選ぶときの実務的なポイントは3つです。
①最低購入金額が違う。1655と2633は10口単位、2558・2630・2634・1547・2521は1口単位です。1655は1口880円台でも10口からなので約8,800円、2558は1口3,500円台で1口から買えます。少額から積み上げたい人は売買単位を必ず確認してください。
②純資産の大きさ。1655が約1,570億円と最大で、2558が約1,065億円、2563が約885億円と続きます。純資産が大きいほど売買が成立しやすく、値段が不利になりにくいという利点があります。
③アモーヴァの2本は信託報酬が0.165%と他の倍以上です。ヘッジなしを選ぶなら1655・2558・2633のいずれか、ヘッジありなら2563・2630・2634から選ぶのが素直です。
なお、そもそもETFと投資信託のどちらで持つべきか迷っている方はETFと投資信託の違いを、S&P500と全世界株で迷っている方はオルカンとS&P500の比較もあわせてどうぞ。
結論:3つの質問で、自分に合うほうが決まる
「今後円高になるか」を当てにいく必要はありません。次の3つに答えるだけで、選ぶべき側はだいたい決まります。
質問1:持つ期間は10年以上か
10年以上ならヘッジなしが基本です。年3%のコストを10年払うと、複利で30%以上リターンを削られます。為替は長期的には行ったり来たりしますが、コストは一方通行で減り続けるためです。
質問2:使う予定が3年以内に決まっているか
住宅資金や学費など、使う時期と金額が決まっているお金ならヘッジありに価値があります。3年後に必要な1,000万円が、為替だけで800万円になっては困るからです。この場合の年3%は、予定を守るための保険料として納得できます。
質問3:円高が来たとき、持ち続けられるか
理屈ではヘッジなしが有利でも、円高で評価額が2割減ったときに耐えられず売ってしまえば、その時点で理屈は無意味になります。自信がなければ、コア(長期の中心)はヘッジなし、一部だけヘッジありという分け方も現実的です。
迷ったときの基本形は「長期の資産形成はヘッジなし、使う時期が決まっているお金はヘッジあり」。この線引きを持っておけば、日銀の会合のたびに乗り換えを考えなくて済みます。
よくある質問
Q. 円高が来そうなときだけヘッジありに乗り換えるのはどうですか?
理屈は正しいのですが、実行は難しい方法です。乗り換えのたびに売却益へ課税され、売買手数料もかかります。加えて、為替の方向を継続的に当て続けられる人はプロでもほとんどいません。乗り換えるなら「相場を読んで」ではなく「自分の使う時期が変わったから」を理由にするほうが、結果は安定します。
Q. 新NISAで買えますか?
8本とも成長投資枠の対象です。ただし、つみたて投資枠で買えるのは1547のみです。毎月コツコツ積み立てたい場合は、同じS&P500に連動する投資信託を選ぶほうが、金額指定で買えて分配金の再投資も自動という点で使いやすくなります。
Q. ヘッジコストはこれから下がりますか?
日米の金利差が縮めば下がります。日銀が利上げを続け、FRBが利下げを進めれば、コストは今の年3%前後から縮小していく方向です。ただし差がゼロになるにはまだ距離があり、当面は「ヘッジは有料」という前提で考えておくのが安全です。
Q. 米国に上場しているVOOなどを直接買う場合はどうなりますか?
米国上場ETFは基本的にヘッジなしと同じで、為替の影響をそのまま受けます。ドルのまま持ち続けて円に戻さないなら為替の影響は先送りできますが、いずれ円で使うのであれば同じことです。経費率0.02%のSPYMのようにコストは米国上場のほうが安く、一方で東証ETFは円のまま日本時間に売買できる手軽さがあります。
為替ヘッジは「良い・悪い」ではなく、コストを払って何を買うかという選択です。8本それぞれの純資産や過去リターンはETFショッピングで最新の数字を確認できます。
※ 本記事は2026年8月時点の一般的な情報です。利回りや値動きは市場環境で変わります。投資判断はご自身の責任でお願いします。
